2017年5月6日土曜日

しるきち北に散る

名前:しるきち(shirukichi)
種類:シルバー文鳥
出身地:東京都
現在住所:港区


「しるきち」はとてもいいところのお坊ちゃんだった。
一人で港区のマンションに住み、親は同じ区内に邸宅を持つ。
将来の仕事は親の会社を継げばOK。
自分専用の車はいつの間にか親が買ってくれていた。
シルバー文鳥は、文鳥の中でも格上。
(実際価格が高いし~)
そんな自分は普通だと思っていた。
が、しかし、ある日しるきちはマンションから見てしまった。
夕食代わりにクジラを捕獲し、飛んで運んでいる「ぴーちゃ社長」を。
しるきちは愕然とした。
親の会社も、港区の3Bマンションも、愛車フェラーリーも
あのパワーの前では無力!!
しるきちは、マンションを飛び出した。



しるきちはクジラを運ぶぴーちゃ社長を追って飛んだ。
人生の中でこれほど真剣に飛んだことはなかったと思うほどに。
ようやく追い付いた時は春日部まで飛んでいた。
ピーチャコーポレーションという建物の前で、
ぴーちゃ社長は、クジラを食べていた。
しるきちはぴーちゃ社長に話しかけた。
「あ、あの・・・」
ぴーちゃ社長はしるきちをクエーッと威嚇した。
「なんだッピか!?、クジラはあげないッピよっ!」
ぴーちゃ社長の剣幕におぼっちゃんのしるきちは固まってしまった。
「いえ・・、そうではなく、僕は・・・」
「あ、会社の入社希望者だッピな~。いいッピよ~。ちょうど『北』に行ってほしかったッピ。行くッピよ~」
クジラを食べ終えたぴーちゃ社長はそう言い残し、飛んでいってしまった。
ビルから白文鳥たちが飛び出して、北へ飛んでいく。
つられて、しるきちも飛ぶ。
しるきちは、うれしかった。
初めて親の管轄と違うところで認められた気分だったのだ。
しるきちは一生懸命飛んだ。
北へ。
北・・・・・・、どこに行くのかは分からないけど。
『北』と言われれる場所は自然が豊富でキレイな海が広がる所だった。
車がほとんど通らないので、大気汚染もない。
人は痩せてはいるが純朴そうで、一昔前の日本はこんな感じだったのかな・・としるきちは思った。
一番ガラが悪いのが文鳥だった。
ピーチャコーポレーションの社員は浜辺に集まり、タバコをふかし、
小銭をかけて「チンチロリン」を始めた。
社長の指示がはいるまで、自由行動のようだ。
しるきちは、やっちゃんみたいな先輩社員におそるおそる聞いた。
「ここは、どこなのですか?」
ガラが悪そうな社員はしるきちをチラッと見てぶっきらぼうに言った。
「北朝鮮だッピョ」
しるきちはやっぱりと思った。
「北朝鮮でしたか。どおりでなにもないと思った・・・・・ケッピョー!!!!
僕たち密入国ですよ!!」
しるきちの言葉に先輩文鳥たちはゲラゲラ笑った。
「鳥はどの国もフリーパスポートだッピョ」
「北朝鮮なんて、世界のなかじゃあ密入国が簡単な方だッピョな~。
貧乏だから、ワイロを送れば楽勝だッピョ。」
「ペンタゴンに入る方が大変だったッピョがな~」
「金持ちはケチなんだッピョよ~」
「皇居もそこそこきつかったッピョ」
「んにゃ、FF発売前のスク○ニの方がきつかったッピョ」
しるきちは、とんでもない会社に来てしまったと、ちょっぴり後悔しはじめた。
いきなり、しるきちと先輩社員の前にぴーちゃ社長が現れた。
ぴーちゃ社長は口をモグモグさせている。
おまけにカニ臭い。
「社長、ブツの方は?」
社員がぴーちゃに訪ねる。
「あの箱50個だッピよ~。気合い入れて運ぶッピな~」
カニ臭い箱が大八車で運ばれてきた。
部下は一羽一つずつ箱にヒモをくくりつけてくわえていく。
日本に持って帰る様子だ。
しるきちは困った。
重そうなカニの箱を持って飛ぶ自信がないのだ。
でも、弱音をはくのはもっとくやしい。
自分の可能性を知りたくてここまで来たのだ。
しるきちは覚悟を決めて蟹の箱にくちばしをのばした・・。
その時、ぴーちゃ社長がしるきちにポンと封筒をわたした。
「お前はコレを運ぶッピよ」
「軽いですね。何が入っているのですか?」
「麻だッピ。ぴーの大切な私物だからお前が責任をもって運ぶッピよ」
麻の実は文鳥の好物。
しるきちは、ぴーちゃの気配りがうれしくなった。
死んでもこの封筒を手放すまいと誓った。



先輩達が蟹箱を持ち飛ぶ。
しるきちも封筒を持って飛ぶ。
ぴーちゃ社長は蟹箱を20箱を持って飛ぶ。
日本を目指して。
海上、しるきちは空気がビリビリする感じに襲われた。
先輩社員がぴーちゃ社長に話しかける。
「社長、戦闘機がきているようだッピョよ」
「カニ購入費のにせドルがばれたッピな~」
「キヤ○ンのプリンターで印刷するからですッピョ」
「失礼なっ!ちゃんとアメリカ製のVISTAをつかったッピ」
「関係ないですッピョ」
ブツブツ言いながら、先輩達は速度をあげた。
戦闘機を振り切るようだ。
ぴーちゃ社長も蟹箱20個をもちながら、楽々速度をあげた。
しるきちはあせった。
都内育ちの車生活なので、他文鳥より速く飛べないのだ。
っていうか、文鳥で戦闘機に勝る飛びっぷりもどうなのよ
・・と突っ込みたいのだが、現実に置いていかれてしまう。
このままでは戦闘機に撃たれてしまうかもしれない。
でも、助けを呼ぶのはもっとくやしい。
悩んでいる間に戦闘機が迫ってきた。
「あああ、お父さん、お母さん。命を粗末にしてごめんなさいっ!!」
しるきちが目をつむったとたんに、
ドグアァァァァーンと爆発音と閃光がとどろいた。
爆風で体が浮き、耳がキーンとなり、鼻の奥がツンとなる。
この感覚。
まだ生きている。
しるきちがおそるおそる目をあけると、そばにぴーちゃ社長がいた。
戦闘機が炎をあげ、カニをまき散らして飛んでいく姿が見える。
しるきちは理解した。
ぴーちゃ社長がカニ20箱を戦闘機にぶつけたのだ。
「社長・・、ごめんなさいせっかくのカニを、ボクのために・・・・」
ぴーちゃ社長はカニを惜しむまでもなく、しるきちに訪ねた。
「封筒は無事だッピか?」
「はいっ、しっかり持ってます」
「よくやったッピ。おまえの方が蟹より大事だッピ。これからもがんばるッピよ」
戦闘機の炎を背に語るぴーちゃ社長の姿はものすごく頼もしく見えた。
かっこいい、かっこよすぎる!
しるきちは、ぴーちゃ社長に付いていこうと固く決心した。
二羽は仲良く日本へ飛んだ。
蟹箱をぶつけられた戦闘機は勢い余って北の軍事施設に激突。
不運にも航空燃料タンクにぶつかり一体が大炎上となった。
相当数の死傷者がでた様子だが、一切正式発表がされないので、
各国のメディアでは推測の域でニュースを報道した。
同時に犯行声明をあげる組織もちらほらとでてきて、
情報はさらに混乱した。
同時期、ピーチャコーポレーション近所の暴力団事務所から、
末端価格3千万円相当の大量の大麻が発見されたニュースが報道された。
団員が「白文鳥から買った」と警察に話し失笑を買ったそうだが、
北問題の影響であまり大きくは扱われなかった。
後日行われた六カ国協議では日本はおミソにされた。
カニ事件が関係しているとかしていないとか。
平和な埼玉の田んぼの中にあるピーチャコーポレーションでは、
国産ズワイ蟹の大安売りをしてご近所様に喜ばれた。
しるきちは麻布からピーチャコーポレーションに通う生活を送り始めた。
さらに、親に「いずれは会社を継ぐ」とはっきり宣言した。
しるきちは、ちょびっと大人になった。
めでたし、めでたし。

・文鳥語埼玉なまり一口メモ
最後に「ッピョ」と言う。
なぜだか、越谷市あたりから北に行くとなまりが発生してくる。
ちなみに都会の文鳥は「ッピ」。
しるきちは鳥なまりがない。
●2007年「しるきち北に散る」のまとめ
http://angeworks.blog.so-net.ne.jp/2007-02-16-1
その当時は偽札疑惑やら、蟹密漁問題等がありましたが、
現在2017年は北朝鮮は偽札輸出国家だとアメリカが発表しています。
六カ国協議は・・忘れてしまいましたがこの頃は日本は舐められていました。

2017年5月4日木曜日

かわいそうな文鳥(かわいそうなゾウ復讐編)

息子と「かわいそうなゾウ」を読みました。
あまりにゾウがかわいそうで読むたびに泣いちゃうお話です。
今回は動物からの復讐編を作ってみました。
ゾウぢゃないけれど。
「かわいそうな文鳥」
時は第二次世界大戦の中。
場所は文鳥春日部動物公園(ぶんちょうかすかべどうぶつこうえん)。
食糧難、敵に攻撃された時に動物が逃げ出した時の危険性を考慮し、
軍の命令で動物は薬殺処分されていました。
特に文鳥は最優先で処分しなさいということだったのですが、
面(ツラ)の皮が厚いで毒薬の入った注射は注射針が通らず、
グルメなので舌が肥えて毒が入った食べ物は受け付けずで、
最終的に飼育員は餓死という選択を取らざるを得ませんでした。
カゴに残った文鳥の名は「ぴーちゃ」そして「しるきち」。
芸をするので動物園では大人気の文鳥です。
ぴーちゃは会社も経営している、社長文鳥です。
ご飯がこなくなったぴーちゃ社長はつぶやきました。

「腹減ったッピな~、しるきち」
「社長、お腹が空きましたね~。社長の会社に食料とか残ってないんですか?」
「ないッピ。戦争が始まってからすぐに軍事系ビジネス一色に変えたッピ。
戦争は一番儲かるッピ。お前のオヤジの会社はどーしたッピ。アワ玉とか回せッピ」
「うちも同じですよ」
「ダメなオヤジだッピな~」
「社長に言われたくないですよ~。
大体、社長がシャンパンだとかキャビアだとか贅沢なものばっかり食べたがるから、
真っ先に食べ物の予算を削減されちゃったじゃないですか~」
「ここは一発、着文鳥(着メロの文鳥版)でもやってエサをもらうッピ」
「いいですね~、社長」
純粋で素直な文鳥たちは人間に芸を見せることにしました。
芸をするとエサをもらえることを覚えているのです。
文鳥たちは今はやりの「着メロ芸」をすることにしました。
「鳥臭い」はもうすでに他の鳥にやられているので、
差別化のために別バージョンを展開することにしました。
パクリビジネスの基本です。
「オヤジ臭い、オヤジ臭い、あーオヤジ臭い」

文鳥たちは必死に人間の口調を真似る芸をします。
飼育員の方々は必死に芸をする文鳥の姿を見て涙が止まりませんでした。
丹誠込めて育てた文鳥にこんなにけなされて、情けなかったからです。
もちろんエサはもらえません。
「社長、なんだかもらえないですよ。っていうか怒られているかんじですが・・」
「しるきち、戦略を変えるッピよ」
ぴーちゃ社長達はカゴの外に飛び出しました。
受けなかったビジネスと市場は時期をみて見切りを付ける。
ビジネスの基本です。
動物園を脱出した文鳥たちは海で伊勢エビやらマグロ(トロ限定)やらをたらふく食べました。


しるきちは不思議に思いました。
「海の幸は豊富なのに、どうして陸地にはご飯がないのでしょうかね?」
「人手不足と燃料不足が影響しているッピな。もともとこの戦争も石油不足からおこったものだッピ」
ぴーちゃ社長はビジネスチャンスを思いつきました。
「しるきち、来るッピ」
「はいっ、社長!」
文鳥たちは東シナ海に飛びました。
文鳥のカンで、石油が眠っているよーな気がしたからです。
石油資源を確保すれば、食料調達だろうが、武器調達だろうが、
新しいビジネス展開が考えられます。
しかし、広大な海を見て、ちょっと途方にくれる文鳥たち。
どこを掘ればいいのか皆目検討がつきません。
しかし、ぴーちゃ社長はアメリカ軍から一番大きなミサイルを調達(失敬)してきました。
あたりを一気に爆破する計画です。
アメリカ軍の爆弾の威力はすごいものでした。
おおきな爆発が広がりました。
キノコ雲まであがりました。

「ケッピョー!社長、これって大丈夫なんですか?なんだかすごい事になってますよ」
「大丈夫だッピ・・・、多分」
文鳥たちがつかった爆弾は「げんしりょく爆弾」というものでした。
おまけに、天然ガスに引火したせいで、あたり一体は火の海になりました。
文鳥たちはビックリして、逃げ出しました。
失敗したビジネスは速攻で見切りをつけるのがビジネスの基本です・・
っていうか「もう、どーでもいいやな、こりゃ」ってのが本音です。

東シナ海の爆発がきっかけで、世界各国の火山が活動を始めました。
世界規模で大惨事です。
人びとは住むところを失い、作物は火山灰のために全滅、
太陽の日が遮られたので異常気象が各地で発生しました。
世界の人口は半分に減りました。
もちろん戦争どころではなくなり、世界大戦は終わりました。
終戦です。
終戦後のゴタゴタで、
文鳥たちは闇市で魚を高額で売りさばいていました。
「社長ぉ~、最初から魚を売っておけばよかったじゃないのですかぁ~?」
「しるきち、そーでもないッピよ。あのお陰で魚の価格が高騰して高く売れるようになった。
『ぴー』は最初から品薄ビジネスを狙っていたッピな~」
「ええっ~?本当ですか~? ま、そういうことにしておきますね」
二羽は輸送手段のない人間の代わりに魚を捕り、さらにお金を儲けました。
大惨事の原因は自然現象と報道されましたが、
なんとなく事情を把握していた動物園は、
責任のがれのために二羽が死んだことににしました。
文鳥春日部動物公園(ぶんちょうかすかべどうつぶこうえん)には、
いまもひっそりと二匹の文鳥のお墓があります。
めでたし、めでたし。





(2007年so-netブログにて公開版)
http://angeworks.blog.so-net.ne.jp/2007-02-27-1#more